もう1つの制度とは
入院などで医療費がたくさんかかってしまったときに役立つ制度として健康保険の高額療養費制度があることは、かなり知られるようになってきました。
しかし、もう1つの制度「医療費控除」をご存じの方は少ないのではないでしょうか?
医療費控除は、高額療養費のように支払った医療費が戻ってくるような制度ではありませんが、所得税や住民税が控除されます(税金が安くなる)。
ざっくり説明すると、家族のために1年間に支払った医療費が10万円を超えた場合に、その超えた額(最高で200万円)が所得から控除される制度です。
控除ということばが難しいですが、その分、所得がなかったとみなされる(所得から差し引くことができる)ということです。
そうなると税金の計算の基となる所得額が減るわけですから、税金が減ることになります。
それでは、この医療費控除でどれくらい税金がおトクになるのか例をあげてみましょう。
【例】 世帯主(夫・サラリーマン)の年収550万円の家庭について
1年間(1~12月)に支払った医療費(自己負担額)の合計が18万円だった場合
<1年間の医療費の内訳>
夫(世帯主) | 歯科治療(金の詰め物) | 58,000円 |
妻 | 花粉症による通院 | 12,000円 |
子 |
虫垂炎による入院 ※高額療養費利用後の自己負担額 |
110,000円 |
この場合、10万円(*)を超えた額は8万円なので、医療費控除の額は8万円となります。
所得が8万円分差し引かれることになるので、本来であればこの8万円にかかるはずの税金分がおトクになります。
(*)総所得金額が200万円未満の場合は、その5%
それでは、そのおトクになる金額がいくらなのか計算してみましょう。
年収が550万円のサラリーマンであれば、通常、所得税率は10%になるので、
8万円×10% = 8千円
すなわち8千円、所得税が安くなります。
18万円の支払いと比べると微妙な額かもしれませんが、医療費控除は住民税にも適用されます。
住民税の税率は10%なので
8万円×10% = 8千円
8千円、住民税が安くなります。
ということで、所得税と住民税を合わせると税金の支払いが1万6千円少なくてすみます。
まあまあおトクといえますし、この制度を利用した方がいいのではないでしょうか?
それでは、医療費控除についてもう少し詳しく見ていきましょう。
医療費控除の対象となる医療費
医療費控除の対象となる医療費は以下のようになります。
<医療費控除の対象となる主な医療費>
医師や歯科医師による診療や治療の費用 |
健康保険の高額療養費の場合は、保険診療のみが対象でしたが、医療費控除については自由診療の治療費も含まれます。 例えば、上記例にある夫が歯科治療で使った金の詰め物は健康保険がききませんが医療費控除の対象となります。同様にインプラントも対象となりますし、その他、レーシックなども医療費控除に含めることができます。 |
薬局などで購入した薬代 | かぜをひいた場合に病院にかからず、薬局で市販薬を購入して治療した場合、風邪薬の購入代金は医療費控除の対象になります。 |
あんまや鍼、お灸、接骨院等の治療費 |
病院以外に、いわゆる接骨院や鍼灸院などの治療費も医療費控除の対象となります。(あんまマッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師などの国家資格を持った人による治療) ただし、単なる肩こりや疲労回復などの場合の施術は含まれません。 |
その他 |
助産師の介助費用、介護保険制度にもとづく介護サービスの自己負担額など |
上記のように対象となる医療費の幅が少し広くなっていますので、高額療養費に収まりきらなかった医療費も控除に加えることができます。
医療費から差し引く金額
上記例で、子の虫垂炎の治療費に高額療養費利用後の自己負担額というただし書きがありますが、医療費控除をする場合、このような健康保険や民間の保険から支払われたお金がある場合は、それを差し引かなければなりません。
例えば、上記例で子が医療保険に入っていたとして、保険金が12万円出たとします。自己負担した11万円は保険金の12万円で補てんされますので、医療費控除に加えることができません。なお、この場合に[11万円-12万円]で引ききれなかった1万円は、他の治療費から差し引く必要はありません。
このように医療費を補てんする保険金などの受け取りがあったときには、計算を間違えないように注意が必要です。
医療費控除の手続き
では、医療費控除に該当するとして、どのように申請したらいいのでしょうか?
実は、医療費控除は確定申告で行います。
これが医療費控除のハードルを高くしている、そして認知率も低い一因です。会社員等の給与所得者の多くは確定申告の必要がないため、確定申告と聞くと難しそうだしビビってしまいますよね。
確定申告といっても、近年は国税庁のWEBサイトで申告書の作成が可能で、電子申告を利用すれば税務署に行く必要もなく、以前よりは負荷が軽くなっています。
また医療費控除だけの申告であれば、基本は、源泉徴収票の数字を転記し、各医療費明細を作成するだけなので、慣れるとそれほど苦労はありません。ただし、はじめての方なら、何をどうしたらいいか? やはり茫然としてしまうかもしれません。
確定申告の季節になると、申告の手引きが出ているような本や雑誌が書店で売られていますので、そのような本での勉強が必要となるでしょう。作成ツールの操作方法などは、身近に経験者がいれば教えてもらうといいでしょう。(ただし具体的な税務相談はNGです)
また、もう1つの手続き上のハードルは、医療費控除の明細書の添付が必要ということです。(平成28年分までは、病院や処方箋薬局が発行する医療費の領収書が必要でしたが、平成29年分から不要になりました。ただし、平成29年分から平成31年分までの確定申告では、医療費の領収書の添付または提示もできます)
医療費控除の明細書は、国税庁のページからダウンロードします。明細書の記入には、健康保険組合等が発行する「医療費のおしらせ」などの医療費通知や、医療費の領収書が必要です。
ふつうは、医療費通知や領収書、市販薬を買ったときのレシートなど、すべてをとっておいて整理している人はあまりいないのではないでしょうか?
医療費控除の申請をするためには、1月~12月まで1年間の医療費通知や領収書をきちんと管理しておく必要があります。家族が健康で暮しているかぎりは、通常は10万円を超えることはないと思いますが、いつ病気やけがで入院したりして大きな医療費がかかるかはわかりません。
何かあったときに医療費控除を使うためには、そのときに備えて、医療費通知や領収書をすべて保管するようにしておかなければなりません。
このように、ぶっちゃけかなり面倒な準備や手続きが必要なのですが、大きな出費があったときに少しでも税金取り戻すためには利用したい制度です。
ちなみに、2020年の確定申告期間は2月17日~4月16日ですが(新型コロナウイルスの感染拡大により1か月延長されました)、給与所得者が医療費控除などの還付申告をおこなう場合は、1月から受け付けています。
※本記事は2020年2月現在の情報をもとに作成しています。
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