AI(人工知能)で決まる価格、ダイナミックプライシングとは

リアルタイムで価格が変わる

こんにちは。Money Motto!ライターのトリです。商品やサービスの価格は私たち消費者、そして提供する側のどちらにとっても重要なものです。

その価格をAI(人工知能)が決めるというダイナミックプライシング(Dynamic Pricing)が広がりをみせています。数年前からアメリカで導入され、日本でも様々な分野で実証実験や導入が始まっています。

ダイナミックプライシングとは何か、私たちの消費行動にどのような影響もたらすかについてご紹介します。

需要と供給に合った適正価格

ダイナミックプライシングとは需要と供給の状況に応じて価格が変動することです。身近なところでは飛行機やホテルなどの宿泊施設が、ずいぶん前からこのダイナミックプライシングを活用しています。

例えば、GWやお盆、年末年始などは繁忙期といわれ、飛行機や宿泊施設の料金が、驚くほど高額になります。普段ならこの価格では利用しないのに、どうしてもその期間にしか休めないからという理由で需要が増え、価格が高くても納得して購入しています。(本心では納得していないかもしれませんが・・・)

飛行機や宿泊施設は供給量が決まっており、在庫は売上損失につながります。可能な限り在庫を減らしたいので、閑散期には値段を下げて販売をするのです。早割や眺望がよくない部屋の価格を下げるのもこのダイナミックプライシングの考え方です。

複雑な条件をAI(人工知能)が瞬時に分析

最近ではAI(人工知能)を用いたダイナミックプライシングが導入され始めています。販売実績や在庫状況などの自社の情報だけではなく、イベントや天候、競合やSNSなどのビッグデータと掛け合わせて最適価格を瞬時に決めています。人が決めるよりも、早く複雑な条件を加味することができ、データを蓄積すればするほど、精度も上がってくるといわれています。

価格戦略は企業にとっての生命線なので、今後もAI(人工知能)による価格決定のシステムを導入する企業が増えていくでしょう。ECサイトでの販売であれば、リアルタイムの価格変動も行うことが可能です。

アメリカではスポーツ界のチケット代に革命

アメリカのスポーツ界では数年前からこのAIによるダイナミックプライシングが導入されています。現在では北米の4大スポーツのNFL(プロアメリカンフットボールリーグ)、MLB(メジャーリーグベースボール)、NBA(プロバスケットボールリーグ)、NHL(プロアイスホッケーリーグ)のチケットはダイナミックプライシングにより決められた価格で販売されています。

それまで、スポーツ観戦のチケット価格は一律というのがあたりまえでした。そこにダイナミックプライシングによるチケットの販売が大きな革命をもたらし、多くのチームのチケット収益性が改善したといいます。

このAIによるダイナミックプライシングのシステムを提供しているのは、Qcue(http://www.qcue.com/)という企業が有名です。市場環境や試合の価値を数値化し、統計学に基づいて価格を決定します。

スポーツ観戦の価値とは何でしょうか。例えば、野球の試合の価値といえば、人気の対戦カード(メージャーリーグでいうとニューヨーク・ヤンキース対ボストン・レッドソックスなど)、オールスターやワールドシリーズの決勝戦などが思い浮かびます。

しかし、それ以外にも様々な要素があります。試合の開催時期や天候、観やすい座席、連休、平日、土日、予告先発投手、引退試合なども消費者が購入を決める大切な要素です。

それらをすべて数値化して分析し、顧客満足度と利益が最大化する価格を決定します。このシステムで導き出される価格は、やみくもに高い価格でチケットを売りつけようとするものではありません。購入する側も納得した価格であるということがポイントです。

一見すると、特別な試合はお金を持っていないと観に行けないというデメリットもありますが、条件さえ合えば、通常よりも安い価格でチケットを買うこともできます。

実際にアメリカでMLBとNHLの試合を観戦しましたが、チケットは対戦カードによって価格がかなりちがいます。また、リアルタイムで変動しているチームもありました。各チームはダイナミックプライシングのシステムを導入し、独自にカスタマイズを行いチケットの価格を決めているのです。

Uber、アマゾン、ウォルマートなどのサービスでも導入

アメリカではスポーツ界以外でも様々なサービスでダイナミックプライシングが導入されています。一般のドライバーが空き時間と自家用車を使って行うタクシーのようなサービスで有名なUberもその一つです。混雑時や深夜早朝の需給に伴い、利用料金がリアルタイムで変化します。

また、ECサイトのアマゾンやウォルマートなどもダイナミックプライシングを採用しています。競合や需給に応じてリアルタイムに変化する価格を設定することで、企業は損失を抑え、利益を最大化しようとしています。

日本のプロ野球でも楽天などが採用

ダイナミックプライシングは日本のプロ野球でも採用が始まっています。2017年度から東北楽天ゴールデンイーグルスが導入、福岡ソフトバンクホークスや東京ヤクルトスワローズも実証実験を実施しました。2018年度からは、横浜DeNAベイスターズも価格変動制のチケット販売を開始しています。そして、2019年度からはオリックスバファローズでもダイナミックプライシングの試験的な販売が始まりました。

Jリーグでもセレッソ大阪が一部座席にダイナミックプライシングを導入すると発表しています。収益アップの効果が実証されれば、日本のスポーツ界でも導入が進みそうです。

ダイナミックプライシングは電気料金にも

北九州スマートコミュニティ創造事業の一環で、電気料金をダイナミックプライシングにする実験が行われています。例えば真夏の昼間など、需要が増えるであろう時間帯の電気料金を高くすることで、消費者に節電を促そうとしています。

本当に電気料金を変動させれば、消費者の行動が変わるのか、どのくらいの料金の変化であれば、節電の効果があるのかを探っています。

オンラインストアの価格はこう変わる

日本国内のEC市場規模はすでに16兆円を突破しています。スマートフォンなどの普及に伴い、さらにEC市場は拡大を続けるでしょう。それに伴いオンラインストアも多くの競合としのぎを削って収益を確保しなくてはなりません。

ダイナミックプライシングはリアルタイムでの価格変化に対応することができます。この仕組みをうまく活用し、収益を最大化しようとするオンラインストアの試みも始まっています。需要と供給に合わせて、適切な価格を決めることができれば、在庫の損失を防ぐことができるかもしれません。

値下げといえば、セール時期など、各社足並みを揃えて実施するということが多いですが、ダイナミックプライシングで需要と供給に即した販売戦略をとれば、セール時期にこだわらずに値下げをすることもできます。

売り手の工夫も必要ですが、この商品は在庫が少ないから相場よりも高い価格で販売するということもできます。この時期しか買うことができないと消費者が判断すれば、売れるかもしれません。

AI(人工知能)で変わる価格の新しい考え方

消費者が納得し、売り手の収益も最大化できる価格をAI(人工知能)が弾き出す。今まで商売の肝とされていた価格設定は、属人的な要素が強いものでした。

シェアリングエコノミーやフリマアプリなどの個人間売買も一般化してきており、モノやサービスの価格は多様化しています。今後は、AI(人工知能)によって私たち消費者も納得できる価格で買い物やサービスを受けることができるようになり、売り手も過度な値引きや在庫を抱えることなく、収益を確保することができるかもしれません。

価格設定は今、大きな変革期を迎えています。今後の動向が気になりますね。


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