シェイクスピア四大悲劇『ハムレット』で学ぶ相続問題

シェイクスピア生家

Farewell 世界のニナガワ

5月12日、演出家の蜷川幸雄さんが亡くなりました。

藤原竜也さん、小栗旬さん、宮沢りえさん、鈴木杏さんらを育てたこと、二宮和也さん、松本潤さん、亀梨和也さんらジャニーズ事務所のタレントを数多く舞台に起用したこと、稽古中に灰皿が飛んでくるほど情熱的な演出などが話題になっていますが、長年にわたって、シェイクスピアをはじめとする海外の古典作品に取り組んできた演出家でもあります。

本日は、追悼版として、蜷川さんがこれまでに何度も演出をしたシェイクスピアの代表作『ハムレット』にみるお金の問題について考えます。

ハムレットってどんな話?

蜷川さんは、8度にわたって『ハムレット』を上演しました。最初の上演は1978年。主人公のハムレットを演じたのは、平幹二朗さんです。以降、渡辺謙さん(1988)、真田広之さん(1995・1998)、市村正親さん(2001)、藤原竜也さん(2003・2015)などが、ハムレット役を演じてきました。

『ハムレット』は、イングランドの劇作家であるウィリアム・シェイクスピアが1600年ごろに書いた作品です。『オセロー』『マクベス』『リア王』と並ぶ、シェイクスピア四大悲劇のひとつでもあります。

デンマーク王である父を殺された王子ハムレットが、その復讐を果たす物語です。「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」(To be or not to be, that is the question.)のセリフでも有名です。

ハムレットと遺産相続

物語が始まる前のハムレットの家族構成をみてみましょう。

ハムレット相関図1

イラスト いしやまとくち

父はデンマーク王、母は王妃。王子ハムレットは、いずれ王位を継承する身です。そして、宰相の娘オフィーリアに恋をしています。

この設定でデンマーク王が亡くなった場合、遺産相続がどうなるか、わが国の民法に照らして考えてみましょう。

相続人の範囲と順位は民法で規定されており、誰でもなれるわけではありません。

 相続順位 相続人 
配偶者 ※1
第1順位 子 ※2
第2順位 直系尊属(父母、祖父母等)
第3順位 兄弟姉妹 ※3

※1 配偶者に相続順位はなく、常に相続人となります。

※2 子がすでに死亡していて、その人に子(死亡した人からみた孫)がいるときは、孫が代襲相続人となります。

※3 兄弟姉妹がすでに死亡していて、その人に子(死亡した人からみた甥・姪)がいるときは、甥・姪が代襲相続人となります。また、相続人がまったくいない場合は、国庫に帰属します。

相続人
配偶者(ガートルード)
子(ハムレット)

法定相続分
配偶者(ガートルード)1/2
子(ハムレット)1/2

複数の子がいる場合は1/2を均等に分割します。王には、ハムレット以外の子がいるような記述がありませんので、ハムレットが1/2を相続することになりそうです。また、ハムレットがオフィーリアと結婚すると、オフィーリアは配偶者となり、ハムレットの相続人の地位が与えられます

このまま終わればハッピーエンドですが、そんなにうまくはいきません。

sad storyは突然に

物語開始時、ハムレットを取りまく人間関係は、以下のように変化します。

ハムレット相関図2

イラスト いしやまとくち

デンマーク王亡きあと、その弟のクローディアスが王位につき、母ガートルードと結婚します。 先の王を尊敬していたハムレットは、母の心変わりにショックを受け、鬱々とした日々を送ります。

そんななか、亡き王の亡霊が現われ、クローディアスによって殺されたことをハムレットに告げます。真実を知ったハムレットは、大いに悩んだあげく、父を殺したクローディアスへの復讐を決心します。ハムレットは、狂気をよそおいながら暗殺の機会をうかがいます。そして、思いを寄せていたオフィーリアに対しても、すげなく扱うようになります。

ここから、怒涛のごとく悲劇が起こります。結論を先に言ってしまうと、上の図の人物全員が死んでしまいます

そして誰もいなくなった

彼らは、どのような最期を迎えたのでしょうか(太字の順に命を落とします)。

まずは、オフィーリアの父である宰相ポロニアス。不運にも、クローディアスと間違われてハムレットに殺されます。続いて、父の死とハムレットの変心にショックを受けたオフィーリア。悲しみのあまり発狂し、池に落ちて溺死してしまいます。父と妹を失ったレアティーズは、ハムレットへの憎しみを募らせます。

いっぽうのクローディアス。自分の命が狙われていることに気づき、対抗策を講じます。ハムレットとレアティーズに剣術の試合をさせ、毒を塗った剣と毒を入れた酒でハムレットを殺害しようと考えます。そこへ王妃ガートルードが登場。何も知らずに毒入り酒を飲み、命を落とします。

そして、剣術の試合をするハムレットとレアティーズ。二人とも、毒剣で傷を負ってしまいます。レアティーズは、ハムレットにクローディアスの企みを告げたのち、息をひきとります。真実を知ったハムレットは、クローディアスを殺し、自らも最期を迎えます。

ハムレットの復讐が果たされたとき、主要な登場人物は誰も生き残っていません。これを悲劇と言わず何と言うべきか…

ちなみに、民法上では、配偶者と子がいない場合、直系尊属(父母、祖父母等)が相続人になります。直系尊属がいない場合の相続人は、兄弟姉妹です。先のデンマーク王の遺産は誰が相続するのでしょうか。「シェイクスピアのみぞ知る」ですね。

おわりに

蜷川さんの死後、小栗旬さんと『ハムレット』上演の約束をしていたことが明かされましたが、残念ながら叶わぬものとなりました。酸素吸入器に車いす姿で演出をしていた映像が、いまでも頭に残ります。ほとばしる情熱で、最後まで演劇と戦い続けた人生に、ただただ感服するばかりです。


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