映画業界はお金が儲からない!?ランキング1位の制作会社に分配される金額はいくら?

今年は新型コロナウイルスの影響で、映画業界も他の業界と同様、大きなダメージを受けました。

そんな中、10月16日から公開された劇場版「鬼滅の刃」無限列車編が大ヒットを記録し、興行収入の面でも大きな成果を上げています。

この「興行収入」という言葉、よく聞きますが、一体なんのことなのでしょうか。答えは、私たちが映画を観るときに支払う「入場料(=観覧料、チケット代)」が集まったものが「興行収入」となります。

ではこの興行収入は、だれの利益になるのでしょう?映画館の収益に?映画を作った人たちに?

映画のお金の流れについて調べてみると、けっこう切実な事情がありました。映画業界は残念ながら、私たちが思うほどには儲からない業界かもしれません。

そこで、映画の市場規模や、映画の制作から上映までのお金の流れ、興行収入が誰にどのように還元されるのか、興行収入が奮わない場合のリスク回避策についてまとめました。

儲かるのは一握り!歴代興行収入ランキングと市場規模

先ほど映画業界は儲からないかもと言いましたが、もちろんヒット作に恵まれれば、かなり儲かるでしょう。

しかし、映画は芸術。万人に受け入れられるものばかりではありません。どうしても「赤字」となる場合も出てきます。

では、「儲かった」映画とはどんな映画でしょうか。

儲かった映画はこれ!興行収入ランキング

日本の歴代興行収入上位の映画を見てみましょう。

日本の映画興行収入ランキングと興行収入

順位 作品タイトル 興行収入 公開日
1 劇場版「鬼滅の刃」無限列車編 346.4億円 2020/10/16
2 千と千尋の神隠し 316.8億円 2001/7/20
3 タイタニック 262億円 1997/12/20
4 アナと雪の女王 255億円 2014/3/14
5 君の名は。 250.3億円 2016/8/26
6 ハリー・ポッターと賢者の石 203億円 2001/12/1
7 もののけ姫 201.8億円 1997/7/12
8 ハウルの動く城 196億円 2004/11/20
9 踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ! 173.5億円 2003/7/19
10 ハリー・ポッターと秘密の部屋 173億円 2002/11/23

※2021年1月3日現在 有限会社 興行通信社調べ 公表時、劇場版「鬼滅の刃」無限列車編は上映中

1位の「劇場版「鬼滅の刃」無限列車編」は、もうすぐ350億円に届きそうな勢い!

では、日本国内で1年間に上映された映画の、興行収入合計はどれくらいでしょうか。

映画業界の市場規模

2019年に日本全国で上映された映画の興行収入は2,611億8,000万円。

入場者数は1億9,491万人で、平均入場料金は1,340円でした※1

同程度の市場規模では、アイドル市場の2,400億円※2、納豆市場の2,497億円※3があります。

※1 一般社団法人 日本映画製作者連盟 http://www.eiren.org/toukei/index.html
※2 2019年の市場規模。矢野経済研究所「2019 クールジャパンマーケット」(ユーザー消費金額ベース)
※3 2018年の市場規模。全国納豆協同組合連合会

映画業界に携わる人たちとお金の仕組み

映画1本の興行収入、さらにそれらを合計した1年間の映画興行収入合計は分かりました。

でも興行収入って、いったいどこに還元されるのでしょう。それは、映画の制作から上映までに関わった人たちです。

下図は、その工程と、興行収入の還元についてまとめたものです。

映画制作工程と興行収入の還元

制作から上映まで、映画業界にはさまざまな人が関わっていますね。

各工程にかかる費用を、順に見ていきましょう。

まず制作プロダクションが映画を企画・制作するのに、制作費がかかります。

出来上がった映画は、配給会社が制作プロダクションから購入。映画をたくさんの人に観に来てもらえるように宣伝し、上映してくれる映画館に配給します。

その映画を上映する映画館や興行会社は、配給会社に上映権利料を支払います。

最後に、私たちが入場料を支払って、その映画を観ます。この入場料の合計が興行収入となります。

この興行収入から各工程の会社にお金が分配・還元される仕組みのため、興行収入が少なければ、分配される金額も少なくなります。

興行収入が奮わなくても赤字を回避!映画製作委員会とは

興行収入が良ければ、映画業界の人それぞれが潤います。しかし、興行収入が悪ければ、利益の還元どころか、赤字になることも。

特に興行収入の分配が最後になる制作プロダクションにとって、その影響は大きなもの。

そこで考え出されたのが「映画製作委員会」です。

映画製作委員会は、映画を制作する際に出資企業を募り、複数の企業がその制作にお金を支払うため、もし興行収入が奮わなかったとしても、1社だけでその負債を負うよりも、リスクを分散させることができます。

製作委員会を構成する企業は、映画から派生して得られる収益を見込んでいる場合も多く、例えばグッズやフィギュアを制作・販売するメーカー、楽曲を販売する会社、テレビ放映をするテレビ局、それらの宣伝をする広告代理店など、多岐にわたります。

ちなみに、いま大ヒットしている劇場版「鬼滅の刃 無限列車編」の製作委員会は3社。極めて少ない出資社数です。

その内訳は、アニメーション制作会社の「ufotable」と「アニプレックス」(楽曲制作含む)、版元の「集英社」です。

興行収入350億円の場合の収益分配例

興行収入の収益分配は、下記のような目安があります。

映画制作の収益分配例

出典:みずほ銀行「コンテンツ産業の展望-コンテンツ産業の更なる発展のために-」みずほ産業調査 2014 Vol.5を参考に作成

例えば興行収入350億円の場合、収益配分の例として下記のようになります。

  • 興行収入:350億円
  • 映画館・興行会社:175億円
  • 配給会社:52.5億円(興行収入の15%として)
  • 製作委員会:122.5億円(興行収入の35%として)

製作委員会の配分122.5億円は、参画企業の出資金額比率で分けることになります。

「制作」と「製作」の違い

気づいた人が多くいらっしゃると思いますが、ここまでに「せいさく」という漢字に「制作」と「製作」の2つが登場しました。

これは、制作プロダクションと製作委員会の役割の違いが分かりやすく表れている表現です。

「制作」:映画という作品を作る、創作面の役割
「製作」:映画を作るための資金調達等、ビジネス面の役割

映画は芸術なので、儲からなくても文化として存続してほしいもの。しかし現実は、お金が儲からなければ衰退してしまいます。

そこで、制作側が全面的にリスクを被らないために発足した映画製作委員会が、ビジネス面で制作をサポートすることになったのです。

製作委員会のデメリット

製作委員会方式は、メリットが多い仕組みに見えます。

しかし、実際にはデメリットも。

映画という作品をつくる際、制作者は潤沢な制作費のもと、自由に表現をしたいもの。

しかし製作委員会がビジネス面で収益が上がるように、企画にも制作にも口を出さざるを得ないため、どうしても、制作費や表現の面で制約が出てきてしまいます。

芸術と収益確保の両立は、永遠の課題のようですね。

余談ですが、映画が大ヒット中の「鬼滅の刃」はコミックスも売り切れ続出中だそうです。電子書籍ならばすぐに全巻手に入るので、原作マンガと映画を比べてみるのも楽しいかもしれませんね。

※本記事は2021年1月現在の情報をもとに作成しています。


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