カンヌやオスカーの受賞効果を調査! 是枝監督の「ベイビー・ブローカー」はどうなる?

こんにちは。長期休暇は連日映画漬けのMoney Motto! 編集部新人のアガリです。

5月28日、カンヌ国際映画祭(以下カンヌ)が終了しました。

『万引き家族』で知られる是枝裕和監督の最新作『ベイビー・ブローカー』は主演のソン・ガンホが「最優秀男優賞」と、*エキュメニカル審査員賞を受賞しましたね。

*映画祭の公式な審査とは別にキリスト教関係者が毎年選出する独立賞

『ベイビー・ブローカー』の受賞結果に注目が集まっていましたが、受賞することで何か利益や効果はあるのでしょうか。

本日は2021年のカンヌで脚本賞を獲得した『ドライブ・マイ・カー』を例に、映画賞受賞による効果を興行収入や上映映画館数等をもとにみていこうと思います。

映画賞受賞による効果を『ドライブ・マイ・カー』で検証

『ドライブ・マイ・カー』は2021年8月に日本で公開された濱口竜介監督の作品です。

第74回カンヌ国際映画祭(2021年)で日本映画初となる脚本賞、国際映画批評家連盟賞、AFCAE賞、エキュメニカル審査員賞受賞、第79回ゴールデングローブ賞(2022年)で非英語作品賞受賞、第94回アカデミー賞(2022年)で国際長編映画賞、作品賞、脚色賞、監督賞受賞と、数々の映画賞を受賞したことで注目を集めました。

これらの賞を受賞していくことで何か変化があったのでしょうか。

カンヌは『ドライブ・マイ・カー』の日本公開前に行われたため、映画賞の受賞効果をゴールデングローブ賞のノミネート時期からアカデミー賞受賞後までの期間で調べてみました。

日本での興行収入を遡ることはできなかったので、アメリカでの受賞効果を追っていきます。

映画の興行成績を集計しているBox office Mojoの調査によると、下のような結果となりました。

興行収入の増加

下の図は『ドライブ・マイ・カー』のアメリカにおける週間興行収入を2週間毎にまとめた推移です。

週間興行収入の推移

みなさんもよく知っている「興行収入*」が映画賞の受賞やノミネートで増加することがわかりました。

ゴールデングローブ賞の受賞やアカデミー賞のノミネート以降に大きく増加していることがわかりますよね。

ゴールデングローブ賞受賞直前(12月24日~1月6日)とアカデミー賞ノミネートから3週間後(2月18日~3月3日)の興行成績を比較すると、約46万ドル、日本円にすると約4600万円(1ドル100円換算。2週間分の合計)も増加していました。

*観客が映画館に支払う入場料の合計金額

上映する映画館数の増加

公開される映画館の数も増えています。

上映館数の推移

日本公開(2021年8月)から3か月遅れて2021年11月20日にアメリカで公開された際は2館での上映でしたが、ゴールデングローブ賞受賞を皮切りに急激に増加し、約300館まで到達しました。

上映される国の数も増加

ちなみに、上映される国の数も映画賞の受賞で増えていました。

『ドライブ・マイ・カー』は2021年7月、カンヌで世界に先駆けて初めて公開・受賞をすると、同年12月のゴールデングローブ賞ノミネートまでの5か月間でアメリカやイタリアなど7か国で公開されました。

さらにゴールデングローブ賞とアカデミー賞の受賞を経て、翌年4月までにさらに13か国増え、合計20か国で上映されるようになりました。

『ドライブ・マイ・カー』が受賞した3つの賞の違いとは?

このように『ドライブ・マイ・カー』は日本での公開前にカンヌで注目を集め、その後ゴールデングローブ賞やアカデミー賞にノミネート・受賞されることで興行成績や上映映画館数を伸ばすことになりました。

これら3つの賞は私たちもよく耳にしますが、3つの賞にはどのような違いがあるのでしょうか。


(画像をクリックすると、大きな画像が表示されます)

「映画祭」と「授与式」の違い

カンヌは映画祭であるのに対し、ゴールデングローブ賞とアカデミー賞は映画賞の授与式です。

カンヌ「映画祭」は12日間にわたり開催され、授与式以外にも様々なイベントが行われます。

特に、同時開催される世界最大の映画マーケット「マルシェ・ドゥ・フィルム」では世界中の映画の配給会社やバイヤーが集まり、制作者による作品の売り込みや交渉で活気づきます。

映画制作者にとっては、作品を評価してもらえるだけでなく、会場に来た世界各国の映画関係者に直接作品をアピールする場でもあるようですね。

一方、ゴールデングローブ賞とアカデミー賞は年に1回、1日だけ開催される映画賞の「授与式」です。

授与式までの上映結果を踏まえて作品が評価されるだけでなく、まだ作品を見ていない人の興味を引くチャンスを作ることができそうですね。実際に『ドライブ・マイ・カー』はゴールデングローブ賞やアカデミー賞で話題になった後、さらに興行収入が増加しています。

応募条件が違う

映画賞ごとに選考対象になる条件も異なります。

例えばカンヌでは、映画祭終了後の5月から翌年4月までの12か月間に作成された映画作品が対象となります。世界中の誰でもオンラインで応募することができますが、受賞後にはフランスで上映しなくてはならないため、フランス語字幕が必要となります。

一方、ゴールデングローブ賞やアカデミー賞は1年間にわたるアメリカでの上映状況や他映画祭での成績によってノミネートされるかが決まります。

2つの賞にノミネートされるためには、前年の1月1日から12月31日の1年間の間にアメリカ・ロサンゼルスで最低7日間上映される必要があります。ちなみにアカデミー賞では、カンヌ国際映画祭を含む特定の映画祭で受賞すると自動的にノミネート対象になります。

カンヌでは実績に関係なく誰でも応募することができるため、「ドライブ・マイ・カー」のようにカンヌで受賞をして世界から注目を集めることができれば、ほかの映画賞のノミネートにもつながりそうですね。

評価する人が違う

他にも、審査員の規模や職業も異なります。

カンヌでは10名前後の映画関係者が審査員として選ばれます。

一方、ゴールデングローブ賞とアカデミー賞では主催団体の会員による投票で決められます。ゴールデングローブ賞は約100名のジャーナリスト集団である「ハリウッド外国人映画記者協会(HFPA)」、アカデミー賞は約9500名の映画関係者で構成される「アカデミー賞会員」によって投票されます。

映画の作り手と、作品を批評する立場のジャーナリストとでは作品を見るポイントが異なりそうですね。

各映画賞で応募方法や審査員が異なると、3つの賞すべてで評価されるのは難しいのではないでしょうか。

独自の部門がある

また、よく注目される作品賞や主演男優賞以外にも、各映画賞で独特の部門があります。

映画を第7の芸術として祝うカンヌでは、主題や美学の独創性を評価する「ある視点部門」、学生の短編映画が対象となる「シネフォンダシオン部門」、新人監督の最初の映画を評価する「カメラドール」などがあります。

ゴールデングローブ賞では映画部門だけでなくテレビ部門もあり、それぞれにドラマ部門とミュージカル・コメディ部門があります。作品のカテゴリーをより細分化して部門を分けているため、ゴールデングローブ賞は3つの中で最も部門数が多くあります。

アカデミー賞では技術者を評価する部門が12もあります。音響、作曲、視覚効果、衣装デザイン、メイク・ヘアスタイリングと、映画製作に関わる様々な工程の技術を評価しています。

賞の部門の違いから各映画賞が何を重視しているのかが見えそうですね。

是枝監督の『ベイビー・ブローカー』も複数受賞の可能性あり!?

3つの賞を受賞することによる効果を検証してきましたが、各映画賞の過去の受賞作品を見ると『ドライブ・マイ・カー』と同じように複数の映画賞を受賞している作品がありますね。

今年のカンヌで受賞した是枝監督の2018年の作品『万引き家族』も、2018年のカンヌで作品賞の最高賞であるパルム・ドールを受賞後、2019年のゴールデングローブ賞で外国語映画賞にノミネートされています。

『ベイビー・ブローカー』もカンヌでの受賞を皮切りに数々の映画賞を受賞し、世界から注目を集め、多くの人に観られることになるのでしょうか。

みなさんも今回の受賞結果だけでなく、その作品がどう注目されていき、どういった賞を取っていくのかにも注目してみましょう。

※本記事は2022年5月現在の情報をもとに作成しています。


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